【Pick Up】社内報冊子「ジーマガ」7号より「外から見たグリー:変化の大きい市場で常に新しさを追い求め 難しさと楽しさの狭間にヒットのチャンスを見出す」

これまでに数々のヒットアニメを世に送り出してきた、株式会社アニプレックス代表取締役の岩上敦宏さん。作り手としての想いを失うことなく、ライセンスやグッズなどビジネスの裾野を広げられています。ゲーム、アニメの垣根を越えて共通するヒット作づくり、面白さの追求とは――?今回は田中と岩上さんの対談をお届けします。

新しさの着眼点がヒットにつながるポイント


田中

田中:岩上さんはもともとアニメがお好きだったんですか?


岩上

岩上:どちらかといえば映像全般が好きでしたね。アニメは小学生の頃から雑誌を買ったりしていましたし、学生時代にはとにかく映画にハマっていました。要するに、映像表現が好きなんですよ。実写もアニメもひっくるめて。昔の無声映画などもよく観ていましたしね。


田中

田中:なるほど。ここ数年、日本のエンターテインメント業界はずいぶん様変わりしてきましたが、その潮流をどのように見られていますか。


岩上

岩上:たとえば、アニメ作品はビデオパッケージから配信へと大きくシフトしています。この10年ほどは国内のアニメファンへの販売が主流でしたが、ほんの数年で手法は配信へ変化し、ターゲットも海外まで広がりました。世界にほぼ同時配信する作品も増えつつあり、市場そのものが活性化していて面白いですよ。以前なら、海外展開はローカライズ化がマストでしたけど、今は逆に「日本仕様のままがいいんだ」という声を受け、吹替を行わないケースもあります。


田中

田中:その変化の背景には何があるのでしょうか?


岩上

岩上:日本=アニメの本場という認識が高まっているのでしょうね。だからこそ、本場の原作のままで楽しみたいというニーズが生まれているのだと思います。


田中

田中:また、ゲームとアニメの親和性も高まっていますね。市民権を得たというか、たとえば「Fate/Grand Order」(以下、FGO)を企画していた頃はまだまだ高かった垣根がずいぶんと低くなり、アニメのゲーム化などポジティブに受け入れられるようになったと感じます。以前は、既存IPをスマホゲームに利用するのを歓迎するムードはそこまでなかった。今では、アニメのIPでスマホゲームのヒット作も登場していますから。


岩上

岩上:私たちの肝は、面白い映像作品を作ること。そこがぶれることはありませんが、ゲームをはじめ、作品を軸として幅広い展開ができるのは非常に幸せなことだと思います。こうしたクロスメディア的な動きにユーザーが慣れてきた結果として、ビジネスの市場は着実に拡大していますしね。その点でも、「FGO」成功の功績は大きいと思います。


田中

田中:確かに、エポックメイキングになりましたね。新しくIPを生み出して、それがゲームとの相性も良いと判明したことが。何十年もかけて育ってきたIPじゃなくても自分たちで作れる、新しいものとシナジーを生み出していけるんだと実感できましたから。
では、そうした時代においてヒット作を生み出すポイントとは何でしょうか。


岩上

岩上:一言で表すなら“新しい”ことですね。どんなものでも、大ヒットするものには必ず何かしらの新しさがある。アニメもゲームも文学や音楽、絵画を含む芸術分野に分類されますが、何百年もの歴史があるなかで全く新しい概念を生み出すのは、ほぼ不可能に近い。ゆえに、大切なのは新鮮さや斬新さを感じさせる組み合わせをひらめくかどうか。その新しさの先にヒットの可能性が見えてくると思います。


田中

田中:「これはいける!」という手ごたえを感じる瞬間があるんですか?


岩上

岩上:私は基本的にイチロースタイルと言いますか…ヒットの延長にホームランがあると思っています。たとえば「FGO」や、私がプロデュースを担当していた「魔法少女まどか☆マギカ」。ヒットの確信を持って世に送り出しましたが、想像以上の伸びに喜ばしい意外性のあるケースは多いですよ。ヒットを打てる自信はあったけど、まさかここまで伸びるとは…!と、自分自身で驚くことがあります。

立場が変わっても変わらないプロデューサーのスタンス


岩上

岩上:新しさを追求するうえで、やはりインプットが多いのに越したことはないです。私は学生時代に年間300本以上、多い時では1日に7本の映画を見ていました。そこは、若さゆえの特権ですよね。だからこそ、今は自社の若手社員にも「インプットは怠らないように」と伝えるよう心がけています。


田中

田中:10代20代の頃のインプットは、いわばコンテンツ制作における英才教育。クリエイターにとっては後々大きな財産として生かせると思います。


岩上

岩上:プロデューサーとして現場の最前線に立っていた頃は、日本で放送されるアニメは一通り全部見ようとするほどの気概がありましたよ。年を経ると、どうしてもなかなかできなくなるけど(笑)ゲームやアニメはもちろん、別の分野も含めて新しいものに触れるのは大切だと思います。現状に甘んじて満足することなく、いろいろな情報に触れていればおのずと感情も揺さぶられるものですから。


田中

田中:作り手としての想いの強さが伝わってきます。社長就任を打診された時はどんなお気持ちでしたか?


岩上

岩上:プロデュースという観点では変わりません。映像作品単体のプロデュースから、ネット配信やグッズ化を含めビジネス全体を見渡し「アニプレックスという会社のプロデューサーになるんだ」という意識でしたね。自分自身が現場に立って作品をプロデュースするフェーズは過ぎ、今やるべきはアニプレックスを“魅力的なエンターテインメントの会社”にすること。今振り返ってみれば、社長就任のタイミングも含めてよかったと思っています。クリエイターの発想はなくすことなく、経営トップとして面白いコンテンツを生み出し続けられる会社を目指して行きたいですね。


田中

田中:社長になっても、やりたいことをやれているという印象は受けますが。


岩上

岩上:田中さんほどじゃないですよ(笑)


田中

田中:いやいや…“やりたいことをやる”っていうのは、とても難しいです。当社でもゲームを開発していますが「これは面白い作品になる!」と感じると、経営目線を離れて作り切りたくなってしまうんですよね。予算も期限もひとまず忘れて、何としても完成させたくなる。クリエイションとマネジメントのバランスを保つ難しさを痛感しています。


岩上

岩上:確かに、そういう局面はありますよね。でも、商業作品だからこそ、制約があるからこそ面白みが増すというのも事実だと思いますよ。


田中

田中:同じ“社長”として、とても興味深い発想です。最後に、今後の展望も含めてグリーに対する期待をお聞かせください。


岩上

岩上:語弊を恐れずに言えば、グリーっていわば田中さんの趣味で生まれた会社だと思っているんです。それが非常に興味深いし、魅力的でもある。原点がピュアで、良くも悪くも利益至上主義ではないというか…。私も原点に立ち返れば、面白い映像作品を作りたいという想いに行き着くわけで、だからこそグリーさんとはもっと一緒に仕事をしていきたいですね。インターネットという切り口を持つグリーさんと、エンターテインメントを主戦場に歩んできた我々が手を組めたら、きっともっとユーザーの皆さんが盛り上がったり楽しんだりできることを生み出せるはず。お互いの良さを組み合わせた“新しくて面白いもの”を、世に送り出していきたいですね。


岩上敦宏:株式会社アニプレックス 代表取締役
1997年、映像プロデューサー講座の受講をきっかけにアニプレックス(当時はSPE・ビジュアルワークス)入社。アニメ制作のプロデューサーとして多数の作品に携わり、『魔法少女まどか☆マギカ』や『物語』シリーズなどを手掛けてきたヒットメーカー。

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